元国会議員秘書から見た、緊縮財政の功罪と将来の産業育成 戦艦大和は無駄だったのか?

 

 バブル経済が崩壊してから、約30年間にわたって、ご存じの通り、財務省が主導する緊縮財政政策がとられて来た訳ですが、この間、一向に景気回復はなされずに、いわゆる「デフレ」の状況が続いてきました。物価が上がったのは、消費税が引き上げられた瞬間のみで、景気回復がけん引する物価上昇とは、言えないものでした。

 積極財政路線を取らずに、ITバブル、中国経済のけん引、米国の株価上昇の要因などで、景気回復の兆しが見られた場面もありましたが、橋本内閣での消費税5%への増税安倍内閣での8%、10%への更なる増税で、税制の差配のみで、大失策とも言える、景気回復の腰折れをさせてしまいました。

 増税して得た資金を十分に、将来への投資に回せば景気の回復が実現できたのかもしれませんが、結局は、そうはなりませんでした。増税分は、すべて社会保障費に使うと言いながら、同時に、増税分と同じ金額の法人税減税を行い、増税したお金は、大企業の内部留保として蓄えられてしまいました。消費税増税を言い出したのは、実は、日本経団連なのですが、言い出しっぺの、経団連加盟の大企業に、消費税増税のお金が渡ってしまったのです。

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 まだ、20年ほど前までは、積極財政=新規赤字国債の発行=無駄な公共事業の実施というイメージの構図があり、当時の政治家・ゼネコンなどの汚職により、公共事業=利権=悪=無駄使い=政治家が焼け太りする、という印象が、国会議員・ほぼ、すべてとも言える国民の意識に植え付けられていたように感じます。

 かくいう、自民党の傍で仕事をしていた私自身も、「国の借金である、赤字国債の発行は良くないことだ」と強く信じていたところがありました。約20年前の国債発行総額は、フランシス・コッポラ監督作品の「地獄の黙示録」に出てくる数字666兆円とう、6のゾロ目という、不吉な数字だったということもありました。

 確かに、「昭和の三大馬鹿査定」と言われた国家予算の、約1割を費やしたと言われる戦艦大和の建造、整備新幹線青函トンネルの建設など、一見、無駄と思われる投資も行っていますが、後世から見てみれば、全くの無駄な投資という訳でもなく、新たな技術の開発・発展にもつながっているなど、平成・令和の世には、技術の遺産・蓄積として、産業界にはその影響を少なからず与えているのではないでしょうか。

 戦艦大和建造から引き継がれる、造船業界においては、世界的な価格競争力が現在あるかどうかは、別にしても、現在でも日本は、造船技術大国と認識され、鉄道技術においては、主要な輸出大国となり、(ベトナムでは、2021年に日本の技術で完成する鉄道が開通します、インドネシアでは、中国が鉄道建設を受注しましたが、その稚拙な技術から、インドネシア政府が、日本に工事を行ってほしいと懇願してきています)、そして、青函トンネルでは、海底に鉄道を通した数少ない国として、世界中に、その技術力の高さを認識されるに至っています。

 高度成長期に、物凄い勢いで整備された社会インフラ(上下水道観、ガス管)は、敷設されてから耐用年数である、50年を経過しようとしています。もう、そろそろ、再整備を行う時期に来ているのではないでしょうか。

 日本中で、道路が陥没したなどのニュースがたまに報道されていますよね。ダムにしても、しかりで、建築年数が経過しているダムについては、貯まった土砂の浚渫工事を行わないと、大雨の時に十分に、雨水を貯水できないかもしれず、水力発電にも影響を及ぼす可能性もあるかもしれません。

 もちろん、無駄に高額な費用をかけて、工事を行うことは、大いに非難されるべきですが、大前研一氏が、かつて、著作の中で、上水道官・下水道管など、道路を掘り起こす工事などは、同じ時期に行う計画を立てて、何度も同じ道路を掘り返さなくても良いように、効率的に、関係自治体の関係部署が情報を共有して、工事を行えば費用を抑えることが可能であると述べています。

 緊縮財政論者から、まれに言われる長岡藩の「米百表」の精神の話が聞かれますが、(緊縮財政路線をとった小泉元首相も、この話を持ち出していました)この話は、無駄な目先の無駄な金を使わずに、教育など将来の発展への投資を行うという意味で、全くお金を使わないという意味ではありません。

 使わなければならないところには、お金を投資していく、行かなければならない、という意味なのです。今の日本の状況で言えば、近い将来の飯のタネへの投資を行うということで、今の日本が、将来への十分な投資を行っているのか疑問符が付くところです。

 最近では、京都大学の山中教授が陣頭指揮を執っている、IPS細胞研究所の予算が削られたとのニュースが話題になりましたが、こういう、世界をリードしている分野の予算を削減して、一体、誰が得をするのでしょうか?こういう分野に、集中的に予算を配分しても、国民の中で反対をする人が、果たしているでしょうか?

 


サイエンティスト・トーク「iPS細胞のテクノロジーとこれからの医療」

 戦後、特定分野の産業を育成する為に、傾斜配分方式の予算組を行って、バブル崩壊までの、製造業を中心とする産業を育成に成功したように、この先10年、20年先を見越して、デジタル分野(DX)への集中投資を行うべきなのではないでしょうか?

 デジタル分野は、すべての家電がインターネットに繋がる、IoT時代においては、日本が伝統的に強いとされる家電などの製造業とも相性がよく、一般家庭への更なる普及も見越せる為、非常にすそ野が広い産業となることが、ほぼ約束されている為、兆円単位で投資を行っても良いのではないでしょうか。

 こうした、近い将来に伸びる産業を育成し、その技術を輸出し外需の依存を高める努力を行えば、消費税制に弱いとされる内需依存型の経済問題も解決されると考えます。