金持ちの富を減らせば・・・

 

  「金持ちの富を減らせば、貧しい人は、より貧しくなる」。英国の名宰相とうたわれたサッチャーさんが政治信条とした考え方だ。

 「金持ちをより豊かにすれば、貧しき人々も潤う」。サッチャーさんや米国のレーガン大統領は一九八〇年代、そういう考えで市場原理主義に沿った規制緩和や富裕層への減税などを進めた。

 いわゆる「トリクルダウン(したたりおちる)」効果を信じてのことだ。

 その結果どうなったか。経済協力開発機構OECD)は今週の火曜日、「多くの国で過去三十年間で所得格差が最大となった。格差拡大は各国の経済成長を損なっている」との最新の分析を発表した。

 推計によれば、格差拡大のために成長率はここ二十年間で米国で6%、日本で5・6%押し下げられた。つまり金持ちはより豊かになったはずなのに、貧しき人は貧しいままで、経済全体の活力もそがれてきたというのだ。

 欧米有力紙はこの分析を大きく伝え、英紙ガーディアンは一面トップでこう断じた。<OECDはきょう、トリクルダウンという考え方を捨て去った>

 格差是正の鍵は教育だが、例えば米国では公立大学の授業料がここ二十年で一・六倍に上がり、貧困層の進学を妨げているそうだ。日本の国立大学はどうかといえば、平成になってからの二十年で一・六倍。

 筆者が高等学校の学生時代に聞いた、先生が大学生の時代の国立大学の学費は1万円未満であった。米国の大学生の多くは、多額の学生ローンを抱えたまま社会人になり、そのローンの返済に苦しめられているというが、わが国も同じことになろうとしている。現に、日本育英会からの奨学金の返済が滞ってしまい、訴訟にまで発展してしまうという事態が増加しているという。

 かく言う筆者も日本育英会のお世話になり、約200万円の奨学金を借り入れたが、完済できたのは、35歳くらいの時だったと記憶している。月々1万円づつ返済するにしても、有に17年近くはかかってしまう計算になる。

 大学を卒業してから17年といえば、普通なら結婚もして子供もいて、マイホームでも欲しい、若しくは、既に購入しているという年代であると想定されるが、そういう年代になっても、学生時代の負債がついて回る計算になるのである。

 給料がなかなか増えない時代に、月々1万円といえども、少なくない金額でなないのではないか。借りたものは返さないといけないのは、世の常であるとはいえ、厳しい現実である。

 日米とも結局、したたり落ちているのは、若い世代の悔し涙なのか。